公知化合物(ファモチジン)の結晶多形特許に関し、明細書中の記載及び意見書中の主張を参酌して、請求項に記載の「B型のファモチジン」は100%の形態学的純度を有するB型のファモチジンを指すと限定的に判断された事例
( 2004年2月5日 長濱範明) |
東京地裁平成14年(ワ)第6613号事件(平成15年5月7日判決)
[前提]
山之内製薬は、ファモチジンに関する基本特許(物質特許)を有しており、 日本薬局方 ファモチジンを原薬とする
H 2 受容体拮抗剤たる「 ガスター(登録商標)」を製造・販売していた。なお、一般名「ファモチジン」〔化学名:N−スルファモイル−3−(2−グアニジノ−チアゾール−4−イル−メチルチオ)−プロピオンアミジン〕にはA型とB型の二つの結晶形のものが存在する。
また、ファモチジンは現行の第十四改正日本薬局方に収載された医薬品である(以下、第十四改正日本薬局方に収載されたファモチジンを「日本薬局方ファモチジン」という)。
( 山之内製薬の特許)
発明の名称 「アミジン誘導体ならびにその製造法」
特許番号 第1333173号
出願日 昭和54年8月2日
登録日 昭和61年8月28日
一方、ハンガリーのリヒターゲデオン社は、ファモチジンの結晶多形であるB型ファモチジンに関する特許を多数の国に出願・成立させており、日本でも1997年に特許として成立していた(特許第2708715号)。
( リヒターゲデオン社特許の請求項1)
「その融解吸熱最大がDSCで159 ℃ であり、その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506、3103及び777
cm −1 にあり、及びその融点が159〜162 ℃ であることを特徴とする「B」型のファモチジン。」
[問題となった行為]
日本医薬品工業及び陽進堂は、山之内製薬が製造・販売する H 2 受容体拮抗剤たる「 ガスター」と同一の後発医薬品として、
日本薬局方 ファモチジンを原薬とする医薬品について薬事法14条1項に基づく製造承認を受け、同医薬品について健康保険法に基づく薬価収載申請をし、
同法の適用を受ける健康保険薬として販売を準備中であった。
[原告(リヒターゲデオン社)の主張]
それに対し、リヒターゲデオン社は、日本医薬品工業及び陽進堂を被告として特許権侵害差止請求訴訟を提起し、リヒターゲデオン社特許における「『B』型のファモチジン」の意義に関し、
「A型ファモチジンの混在がDSC吸熱最大では検出されるが、IRスペクトル特性においては検出されない程度に少ないものは実質的にB型ファモチジンと同等のものとして本件発明に係る『B』型ファモチジンであると理解すべきであり、
本件発明に係る『B』型ファモチジンは100パーセント純粋なB型ファモチジンに限定されるものではなく、A型ファモチジンが混在していて100パーセント純粋なB型ファモチジンといえなくても、本件特許請求項1に規定されている3要件、
殊にIRスペクトル特性が一致する限り、本件発明に係る『B』型ファモチジンに当たるというべきである」
と主張した。
[被告(日本医薬品工業及び陽進堂)の主張]
一方、被告らは、
「山之内特許に係る公知のファモチジンは、A型ファモチジンとB型ファモチジンの混合物であった。本件発明は、公知のファモチジンとは異なり、「100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンである」
との主張が認められて特許査定されたものである。したがって、本件発明に係る「B」型ファモチジンは、形態学的に均質なファモチジン、すなわち、純度100%の単一のB型結晶ファモチジンを意味する。
被告ら医薬品の原薬ファモチジンは、山之内特許明細書の実施例2の製法に従って製造された上記公知のファモチジンであり、A型ファモチジンとB型ファモチジンの混合物であるから,本件発明の技術的範囲に含まれない。」
と反論した。
[裁判所の判断]
本件訴訟に関し、裁判所は、
・本件特許明細書の「発明の詳細な説明」欄においては「A型ファモチジン」と「B型ファモチジン」の混合物(多形混合物)と純粋な「A型ファモチジン」又は「B型ファモチジン」(均質多形体)とを明確に区別していること、
・拒絶理由通知に対する意見書において、引用例のファモチジンがA型及びB型の混合物であるのに対し、本件発明に係るB型ファモチジンは「純品なB型ファモチジン」であると述べて特許査定に至っていること、
等の事実経緯に照らすならば、リヒターゲデオン社特許における「『B型』のファモチジン」は、形態学的に均一なB型のファモチジン、すなわち100%の形態学的純度を有するB型のファモチジンを指し、
形態学的な混合物を含まないものと解するのが相当であると判断した。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば被告ら医薬品の原薬ファモチジンは純粋なB型のファモチジンではなくA型とB型の混合したファモチジンであると認定し、被告ら医薬品は本件発明の技術的範囲に属しないとして原告の請求を棄却する判決がなされた。
[タラレバのコメント]
リヒターゲデオン社の特許明細書において、
・A型ファモチジンが混在していてもよい程度が明確に規定され
・その範囲であれば純粋なB型ファモチジンと同等の作用・効果が奏されることが記載されていれば、「B型のファモチジン」の意義がその範囲まで含むと解釈される可能性が高まったであろう。
出願時の明細書において、このような純粋物に限定解釈されないような手当てをしておくことは重要である。
一方、あくまでも先行技術である山之内特許に係る公知のファモチジンと明確に識別できる範囲において特許性(新規性及び進歩性)が認められることから、
混在していてもよいとするA型ファモチジンの含有量の範囲が広くなれば拒絶・無効となる可能性が高まる点にも留意して手当てする必要がある。
以上
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